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八木式アンテナの基礎知識 - 構造・メリット・デメリットを徹底解説

2024.06.19


八木式アンテナは、テレビの電波を受信するためのアンテナの一種であり、日本で最も普及率が高いアンテナです。その特徴的な外見から、アンテナといえばこの形状を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、八木式アンテナがどのように電波を受信しているのか、どんなメリットやデメリットがあるか知っていますか?本記事では八木式アンテナの基礎知識を幅広く取り上げ、わかりやすく解説します。

八木式アンテナとは

八木式アンテナ、それは日本で生まれ、世界中で広く使われているアンテナの一種です。テレビ放送を受信するために、多くの家庭で親しまれてきました。

八木式アンテナの歴史と由来

八木式アンテナの歴史は、1920年代にまで遡ります。当時、東北帝国大学工学部電気工学科(現在の東北大学)に所属していた八木秀次氏と宇田新太郎氏が、アンテナの研究を進めていました。八木氏は指導的立場にあり、宇田氏は助手として研究を補佐していました。

1924年、八木氏の指導のもとで卒業研究を行っていた学生が、電磁波の中に様々なコイルを置いて電磁波強度を測定する実験を行っていました。その際、特定の条件下で電流計の針が異常な振れ方をすることを発見したのです。この現象に興味を持った八木氏と宇田氏は、コイルを金属棒に置き換えて実験を重ねた結果、アンテナの基本原理を確立するに至りました。

戦時中は、主に軍事目的で利用されていた八木式アンテナですが、戦後になると一般家庭にも普及していきます。1953年の地上アナログ放送の開始とともに、八木式アンテナは多くの家庭で使用されるようになりました。2011年の地上デジタル放送への完全移行後も、その役割を担い続けています。

近年では、宇田氏の貢献も見直されつつあり、「八木・宇田アンテナ」という呼称が学術的に用いられることが増えてきました。二人の研究者の功績を正当に評価する動きが、徐々に広がっています。

八木式アンテナの普及率

八木式アンテナは、日本国内で最も普及率の高いテレビ用アンテナです。その普及の背景には、アナログ放送時代からの長い歴史と、優れた性能、そして経済性があります。

テレビ放送に欠かせない八木式アンテナ

1953年に地上アナログ放送が開始されると、八木式アンテナは急速に普及していきました。当時は、テレビが一般家庭に浸透し始めた時期であり、多くの家庭で八木式アンテナが屋根の上に設置されました。その特徴的な形状は、日本の住宅街の風景として定着していったのです。

2011年の地上デジタル放送への完全移行後も、八木式アンテナは主要なアンテナとしての地位を維持しています。デジタル放送に対応した八木式アンテナが開発され、より高い性能を発揮できるようになりました。

八木式アンテナ普及の理由

日本における八木式アンテナの普及率の高さは、電波の受信状況とも関係しています。日本は山がちな地形が多く、電波塔からの距離や障害物の影響で電波が弱くなりやすい地域があります。そのような環境でも、八木式アンテナは高い受信感度を発揮するため、安定したテレビ視聴が可能です。また、設置費用がリーズナブルであることも、普及率の高さに繋がっているといえるでしょう。

近年では、外観を重視したデザインアンテナなど、八木式アンテナ以外の選択肢も増えてきました。しかし、八木式アンテナは、その性能と経済性の高さから、今なお多くの人に選ばれています。

八木式アンテナの平均的な寿命

八木式アンテナの平均的な寿命は約10年と言われています。ただし、これはあくまで目安であり、設置環境や使用状況によって大きく異なる場合があります。

八木式アンテナの寿命に影響を与える主な要因は、気象条件です。屋外に設置されるため、雨風や紫外線などの影響を強く受けます。沿岸部では潮風による塩害で腐食が進みやすく、豪雪地帯では雪の重みによる負荷で劣化が早まることがあります。一方、穏やかな気候の地域、特に日照時間が短く、湿気が少ない環境では、八木式アンテナの寿命が10年以上に及ぶこともあります。

八木式アンテナの構造

八木式アンテナは、その特徴的な外見から「魚の骨」に例えられることが多いですが、この独特の形状にこそ優れた性能の理由が隠れています。八木式アンテナの構造は、大きく分けて3つの部分から成り立っています。

輻射器の役割

八木式アンテナの中心に位置する輻射器は、電波を受信し電気信号に変換する働きを担っており、アンテナの心臓部ともいえる重要な部分です。八木式アンテナの中で最も長い金属の棒で構成されていて、この長さは受信する電波の波長の半分に等しくなるように設計されています。

輻射器が電波を受信すると、その電波は放射器内で電気信号に変換されます。この電気信号は、同軸ケーブルを通じて、テレビやラジオなどの受信機に伝送。受信機はこの電気信号を処理し、映像や音声として出力します。

反射器の役割

反射器は、輻射器の後方に配置された金属の棒で、放射器よりもわずかに長くなっています。反射器の主な役割は、電波を反射させ輻射器へと集中させることです。輻射器は電波を効率的に受信するために、できるだけ多くの電波を集める必要があります。そこで、反射器を用いて、輻射器の後ろから来る電波を反射させ、輻射器へと集中させます。

また、反射器は、八木式アンテナの指向性を高める役割も果たしています。アンテナの指向性とは、特定の方向から来る電波を選択的に受信する能力のことです。反射器は、輻射器の後ろ側から来る不要な電波を遮断し、前方からの電波のみを受信するようにします。これにより、八木式アンテナは、目的の方向(前方)から来る電波を効率的に受信することができるのです。

導波器の役割

導波器は、輻射器よりも短い金属の棒が複数本、等間隔に並んだ構造になっています。導波器の役割は、輻射器で受信した電波を増幅し、指向性を高めることです。導波器の本数(素子数)が多いほど、アンテナの利得(受信感度)は高くなります。

電波は導波器に到達すると、その一部が導波器に吸収されます。吸収された電波は導波器内で増幅されて放射され、隣接する導波器に伝わります。各導波器は、前の導波器から受け取った電波を増幅して次の導波器に引き渡すので、電波は導波器を通過しながら徐々に増幅されて、輻射器に到達します。

素子数(導波器の本数)と受信感度の関係

八木式アンテナの性能を決定する重要な要素の一つが、素子数です。導波器の本数のことで、導波器は放射器で受信した電波を増幅する働きをするため、導波器の本数が多いほど電波の増幅回数が増えて、結果として受信感度が高くなります。

ただし、素子数を増やせば増やすほど良いというわけではありません。素子数が多くなると、アンテナの全長が大きくなり、設置が難しくなることがあります。また、素子数が多すぎると、アンテナの後方への電波の漏れが大きくなり、かえって受信感度が低下する場合があります。素子数は、受信する周波数帯や設置場所の環境などに応じて、適切に選択する必要があります。

八木式アンテナとデザインアンテナの違い

屋根の上に設置された八木式アンテナは、日本の住宅街の風景として長らく親しまれてきました。しかし、機能性を重視するあまり、デザイン性は二の次にされがちでした。昨今、住宅デザインへの関心が高まる中で、アンテナもまた外観との調和が求められています。

見た目の違い

八木式アンテナは、その特徴的な「魚の骨」のような形状が印象的です。複数の金属の棒が一列に並んだ構造は、どこか無骨な雰囲気を感じさせます。

一方、デザインアンテナは、そのスタイリッシュなフォルムが特徴です。シンプルな箱型やパネル型のデザインが主流で、壁面に設置してもそれほど目立ちません。また、色のバリエーションも豊富で、住宅の外観に合わせて選ぶことができます。

八木式アンテナが無骨な実用品であるのに対し、デザインアンテナは機能とデザインの調和を図った製品といえるでしょう。

設置場所の違い

八木式アンテナは、その構造上、主に屋根の上に設置されます。屋根の上は、周囲に障害物が少なく、電波を受信しやすい環境です。また、高い位置にアンテナを設置することで、より遠くの電波塔からの電波を捉えることができます。一方、デザインアンテナの主な設置場所は住宅の壁面です。壁面への設置は、高所作業を必要とせず、比較的容易に行うことができます。

受信感度の違い

八木式アンテナは、その構造上、高い受信感度を実現することができます。また、屋根の上に設置されることが多いため、周囲の障害物の影響を受けにくく、安定した受信が可能となります。

一方、デザインアンテナの受信感度は、八木式アンテナと比べるとやや劣る傾向があります。デザインアンテナは、シンプルな構造ゆえに、電波を集中させたり、増幅したりする能力に限界があるためです。また、デザインアンテナは主に壁面に設置されるため、周囲の建物や地形の影響を受けやすくなります。特に、都市部の住宅密集地では、隣接する建物によって電波が遮断され、受信感度が低下することがあります。

価格の違い

八木式アンテナは、シンプルな構造のため製造コストを抑えることができるので、手ごろな価格で提供されています。一方、デザインアンテナは、美しい外観やコンパクトな構造を実現するために、特殊な材料や高度な製造技術を用いているため、八木式アンテナと比べるとやや高価格です。また、高性能な増幅器や、電波を効率的に受信するための工夫が施されていることが多く、これらの技術的な要素も価格が高くなる理由のひとつです。

ただし、デザインアンテナの価格は、年々下がってきています。技術の進歩や量産効果によって、高性能なデザインアンテナが、比較的手ごろな価格で提供されるようになってきています。

八木式アンテナのメリット

八木式アンテナは、長年にわたって、多くの家庭で安定したテレビ視聴を支えてきました。デジタル放送の時代になっても、その役割は変わっていません。なぜ八木式アンテナは選ばれるのでしょうか。

高い受信感度

八木式アンテナの最大のメリットは、その高い受信感度です。八木式アンテナは、複数の導波器を備えた独特の構造により、電波を効率的に受信し増幅することができます。特に、電波の弱い地域や、都市部の電波が混雑した環境で、八木式アンテナの真価が発揮されます。弱い電波であっても、的確に捉え増幅することができるため、画像の乱れや、音声の途切れなどを防ぐことができます。

また、八木式アンテナは、その指向性の高さも大きな特徴の一つです。八木式アンテナは、電波塔の方向に向けて設置することで、目的の電波を的確に捉え、不要な電波の混入を防ぎ、よりクリアな映像と音声を得ることができます。

リーズナブルな価格

八木式アンテナは、シンプルな構造ゆえに、比較的リーズナブルな価格で提供されています。金属の棒を組み合わせただけのシンプルな構造をしているため、製造コストを抑えることができます。また、長年にわたって広く普及してきたため、量産効果によってもコストダウンが図られています。素子数が多いほど受信感度は高くなりますが、同時に価格も高くなる傾向があります。

素子数を増やして電波をキャッチする能力を高められる

八木式アンテナの大きな特徴の一つは、素子数(導波器の本数)を増やすことで、電波をキャッチする能力を高められることです。素子数が多いほど、アンテナの受信感度が高くなります。一般的には10素子~20素子程度です。

しかし、特に電波の弱い地域や、受信環境の厳しい場所では、さらに多くの素子数を持つアンテナが必要となる場合があります。例えば、30素子や、40素子といった多素子のアンテナは、遠く離れた電波塔からの微弱な電波であっても的確に捉え、増幅することができます。

八木式アンテナのデメリット

八木式アンテナは、その優れた受信感度とリーズナブルな価格から、多くの家庭で選ばれています。しかし、魚の骨のような構造や、設置場所が屋根であることが、デメリットとなる場合があります。

外観を損ねる可能性

近年は住宅のデザインを重視する傾向があり、屋根の上に大きくそびえ立つ八木式アンテナは、景観を損ねる存在と映ることがあります。特に、現代的なデザインの住宅や、伝統的な日本家屋などでは、八木式アンテナがその雰囲気を壊してしまう可能性があります。

天候の影響を受けやすい

八木式アンテナは、その構造上、風雨や積雪、強い日光などの影響を直接受けるため、劣化や破損のリスクが高くなります。

強風は、アンテナの素子を歪ませたり、支柱を傾けたりする原因となります。特に、台風のような強烈な風が吹くと、アンテナの破損や倒壊のリスクが高まります。また、雨や雪は、アンテナの金属部分を錆びさせ、内部に水分が侵入することで、ショートや断線などのトラブルが発生しやすくなります。さらに、紫外線もプラスチック部品の劣化を進ませ、ひび割れや変色を起こします。素子を固定している絶縁体などが脆くなれば、強度不足から破損に繋がることもあるでしょう。

鳥害に遭いやすい

八木式アンテナはその独特な形状ゆえに、カラスや鳩などの野鳥にとって、格好の止まり木に見えるようです。彼らは無防備に並ぶ素子の上で羽を休め、時には巣作ってしまいます。

鳥が八木式アンテナに止まると、まず問題となるのが鳥の糞です。鳥の糞がアンテナの素子や接続部分に付着すると、腐食やショートの原因となります。また、止まった鳥の重みで素子が歪んでしまえば、電波の受信状態に影響が出ます。さらに厄介なのが巣作りで、素子の間に巣ができると、アンテナの受信感度が大きく低下したり、巣材によってアンテナが損傷することがあります。

メンテナンスや修理が素人には難しい

八木式アンテナは、その構造の複雑さと設置場所の高さから、メンテナンスや修理を素人が行うのは容易ではありません。アンテナの状態を確認するための目視点検ですら、安全面での懸念があります。また、アンテナの方向調整や部品の交換となれば、専門的な知識と技術、機材が不可欠です。素人が無理に作業を行えば、アンテナの性能を損ねるだけでなく、事故のリスクを高めることにもなります。

八木式アンテナを設置できる場所は?

八木式アンテナの設置場所は、大きく分けて4つの選択肢があります。設置場所によって、受信感度や、耐久性、そしてメンテナンスの容易さなどが大きく変わるため、自分の住環境や、ニーズに合わせて、最適な場所を選ぶ必要があります。

屋根の上

八木式アンテナを設置する場所として最も一般的なのが、屋根の上です。屋根の上は、周囲に障害物が少なく、高い位置からの電波を受信しやすい環境にあるため、アンテナの性能を最大限に発揮することができます。また、屋根の上は、周囲の建物や樹木などの障害物の影響を受けにくいため、電波の反射や干渉が少なく、安定した受信が可能です。

ベランダ

屋根の上にアンテナを設置することが難しい場合は、ベランダに設置することもできます。大きなメリットは、設置の容易さです。屋根の上と比べ高所作業のリスクが少なく、比較的簡単にアンテナを取り付けることができます。また、アンテナの方向調整や、メンテナンスも、ベランダからアクセスできるため容易に行うことができます。しかし、ベランダの向きによっては、電波塔の方向とアンテナの向きがずれてしまい、良好な受信ができない場合があります。

屋根裏

屋根裏は、アンテナを外部から見えないようにできるため、建物の外観を損ねることなくアンテナの設置が可能です。屋根裏に設置する最大のメリットは、アンテナが外部の影響を受けにくいこと。風雨や日光、鳥害などの影響を大幅に軽減することができ、アンテナの劣化を抑え寿命を長くすることができます。しかし、断熱材などが施されている屋根裏では、断熱材が電波を遮断し受信感度が低下する可能性があります。また、屋根の形状によっては、アンテナの向きが制限される場合があります。

壁面

壁面は地上からのアクセスが容易であるため、高所作業のリスクが少なく、比較的簡単にアンテナを取り付けることができます。また、アンテナの方向調整や、メンテナンスも、地上から行うことができるため、安全性と利便性が高いのがメリットです。また、屋根の上と比べると、風雨の影響を受けにくい環境にあります。軒下など、雨がかりの少ない場所に設置することで、アンテナの劣化を抑えることができます。ただし、壁面の高さが十分でない場合や、壁面の近くに樹木や他の建物がある場合、受信感度が低下する可能性があります。

八木式アンテナの設置にかかる費用は?

アンテナ設置で発生する費用には、主に本体費用、設置工事費用、ブースターの設置費用です。また、既存のアンテナを撤去・処分する必要がある場合は、その費用も考慮しなければなりません。

八木式アンテナ本体の価格

八木式アンテナは、他のアンテナと比べると比較的安価で提供されています。素子数やメーカーによりますが、一般的な14素子や20素子の八木式アンテナであれば、2,000円~10,000円程度で購入できます。

ただし、電波の弱い地域や、受信環境の厳しい場所では、より多くの素子数を持つアンテナが必要となる場合があります。30素子や40素子になると、価格は10,000円~20,000円程度です。

設置工事にかかる費用

屋根の上に八木式アンテナを設置する場合、一般的な設置工事の費用は10,000円~30,000円程度です。屋根の高さや、形状、材質によっては、特殊な工事が必要となり、費用が高くなる場合があります。

一方、ベランダや、壁面にアンテナを設置する場合は、屋根の上と比べると、設置工事の費用は抑えられます。高所作業のリスクが少なく、アクセスが容易であるため、施工業者の人件費を削減することができるためです。ただし、ベランダや壁面への設置でも、建物の構造や材質によっては特殊な工事が必要となり、追加の費用が発生することがあります。

ブースター設置の費用

ブースターはアンテナで受信した電波を増幅する装置で、電波の弱い地域や受信環境の厳しい場所で、受信感度を改善するために使用されます。ブースターの設置費用は、ブースターの種類や、設置方法によって異なりますが、一般的に15,000円~30,000円程度です。ただし、高性能や複数端子のブースターは価格が高くなります。例えば、4K・8K放送に対応した高性能なブースターは、30,000円~50,000円程度です。

また、ブースターを屋内に設置する場合は、比較的簡単な工事で済むため費用を抑えられます。一方、屋外に設置する場合は、防水処理や電源の確保などが必要となるため、費用は高くなります。

古いアンテナの撤去・処分費用

八木式アンテナを新しく設置する際、既存のアンテナを撤去・処分する場合があります。古いアンテナの撤去・処分費用は、アンテナの種類や設置場所、処分方法によって異なりますが、一般的な八木式アンテナの撤去・処分だと、4,000円~10,000円程度です。ただし、大型のアンテナや高所に設置されたアンテナの撤去は、より専門的な作業が必要とされるため、費用が高くなります。

まとめ

八木式アンテナは、その優れた性能と経済性から多くの家庭で利用されています。その特徴的な「魚の骨」のようなシンプルな構造でありながら高い受信感度と耐久性を兼ね備えています。また、リーズナブルな価格も大きな魅力です。一方で、外観や設置場所、気象条件による影響といったデメリットもあります。